今年の年末調整は、精算額がいつもより大きくなります
令和8年分の年末調整には、2つの税制改正が同時に効いてきます。令和7年度改正で決まった基礎控除と給与所得控除の見直しに加え、令和8年度改正で基礎控除の本則がさらに引き上げられ、扶養親族の所得要件も緩和されました。どちらも令和8年分の所得税から適用されます(出典:令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について(国税庁))。
一方で、毎月の給与から天引きする源泉所得税は、令和8年11月分まで従来の税額表のままです。改正後の税額表は令和9年分から使います。つまり、1年分の差額が年末調整でまとめて精算される形になり、還付額が例年より大きくなる従業員が多く出ます。
給与計算の担当者にとっては、控除額の計算だけでなく、扶養に入れる家族の範囲が広がったことによる申告書の書き直しや、新しい様式への対応が重なる年です。顧問先や経理代行のお客様からも、大学生の子どもを扶養に戻せるのかという問い合わせが夏ごろから届き始めています。この記事では、変わった点を4つに絞って整理し、9月から11月のあいだにやっておく準備をまとめます。
令和8年分で変わった4つのこと
基礎控除が62万円に上がり、所得に応じた加算がつく
基礎控除の本則は58万円から62万円に引き上げられました。さらに令和8年分と令和9年分に限って、合計所得金額に応じた加算があります。合計所得金額が132万円以下なら加算後の基礎控除は104万円、489万円超655万円以下なら67万円、655万円超2,350万円以下なら62万円です。中間の区分にも段階的な加算が設けられています(出典:令和8年4月 源泉所得税の改正のあらまし(国税庁))。
パートやアルバイトの多くは132万円以下の区分に入るため、基礎控除が104万円になります。ここが今年いちばん影響の大きい変更です。
給与所得控除の最低保障額が74万円に
給与所得控除の最低保障額は、65万円から74万円に引き上げられました。給与収入190万円以下の人に適用されます。基礎控除104万円と合わせると、給与収入178万円までは所得税がかからない計算になります。この「178万円」という数字の背景は、178万円の壁で給与計算はどう変わる?で3月時点の情報をもとに整理しています。
扶養に入れる家族の所得要件が62万円以下に
配偶者控除や扶養控除の対象になる家族の合計所得金額の要件が、58万円以下から62万円以下に緩和されました。給与収入に直すと、136万円以下です。これまで数万円の差で扶養から外れていたパートの配偶者や、アルバイトをしている子どもが、今年は扶養に入れる可能性があります。
年初に提出してもらった扶養控除等申告書は、旧要件で判断されたものです。要件が変わった以上、該当しそうな従業員には申告書を出し直してもらう必要があります。
特定親族特別控除が新設された
19歳以上23歳未満の子などで、合計所得金額が62万円を超え123万円以下の親族について、新しく特定親族特別控除が設けられました。控除額は最大63万円で、親族の所得が増えるにつれて段階的に下がります。大学生の子どもがアルバイトで扶養控除の枠を超えてしまった場合でも、この控除で一定額を差し引ける形です。
この控除を受けるには、年末調整で「特定親族特別控除申告書」(基礎控除申告書などと兼用の様式)を提出してもらう必要があります。従来にはなかった項目なので、案内を忘れると控除漏れになります。
給与計算の現場で起きること
還付額が大きくなる
11月分までの源泉徴収は旧税額表のままなので、改正による減税分は年末調整で一度に戻ります。基礎控除と給与所得控除の引き上げ分がまとめて戻るため、還付が数万円単位になる従業員も出てきます。12月の給与で還付する場合は、その月の資金繰りに影響します。先に金額の見込みを立てておくと安心です。
申告書の出し直しが増える
所得要件が変わったことで、扶養親族の判定をやり直す従業員が出ます。特に、パートで働く配偶者の年収が123万円から136万円のあいだにある人、アルバイトをする大学生の子どもがいる人は、申告書の内容が変わる可能性が高い層です。従業員が自分で気づくとは限らないので、会社側から「今年は扶養の条件が変わりました」と案内するほうが確実です。
なお、令和6年分にあった定額減税は令和8年分にはありません。昨年の源泉徴収簿にあった定額減税の欄と混同しないように注意してください。
様式が変わる
源泉徴収簿には特定親族特別控除額の欄が追加され、扶養控除等申告書には特定親族の欄が加わりました。令和8年分の新しい様式を使う必要があります。給与ソフトを使っている場合は、令和8年分の年末調整に対応したバージョンに更新されているかを確認してください。Excelで管理している会社は、国税庁の新様式をダウンロードして差し替えます。昨年の年末調整では、定額減税の欄を空欄のまま提出された申告書が複数あり、確認に時間がかかりました。今年は新しい欄が増えるので、記入例を添えて配ると手戻りが減ります。
9月から11月にやっておく準備
年末調整の作業そのものは12月ですが、今年は事前の準備で負担がかなり変わります。順番はこのとおりです。
- 給与ソフトの対応確認:令和8年分の年末調整(新しい基礎控除・特定親族特別控除・新様式)に対応した更新が提供されているか、9月中に確認する
- 扶養の再確認の案内:配偶者や子どもの年収が新しい要件の範囲に入りそうな従業員に、申告書を出し直してもらう。案内は10月中に出すと、12月の作業が軽くなる
- 特定親族特別控除申告書の準備:19歳から22歳の子どもがいる従業員に、新しい申告書の存在を伝える
- 還付額の見込み:控除が増える従業員が多い会社は、12月の資金繰りに還付分を織り込む
時給が上がって扶養の範囲を超えそうなパートの方については、2026年度の最低賃金は目安で56円引き上げでも触れました。最低賃金の改定と所得要件の緩和が同じ年に重なっているので、シフトの相談が出たときは両方を合わせて説明できるようにしておくと話が早くなります。
年末調整を外に出すという選択肢
年末調整は毎年のことですが、改正が重なる年は担当者1人で処理するには負担が大きくなります。税理士法人GrowUpの経理代行では、給与計算から年末調整までを一括でお預かりしています。改正内容の読み込み、申告書の案内文の作成、ソフトの設定変更は当法人側で行うため、会社側は従業員から申告書を回収するだけで済みます。
給与計算そのものを外に出すかどうかの判断材料は、給与計算をアウトソーシングするメリットと注意点にまとめています。年末調整だけを単発でお受けすることもできますので、今年の改正対応に不安がある場合は早めにご相談ください。改正が重なった年に自社で処理を続け、担当者が申告書の確認に追われて12月の給与計算が遅れた、という相談は珍しくありません。
まとめ
令和8年分の年末調整は、基礎控除の引き上げ(最大104万円)、給与所得控除の最低保障額の引き上げ(74万円)、扶養親族の所得要件の緩和(62万円以下)、特定親族特別控除の新設という4つの変更が同時に適用されます。月次の源泉徴収は11月まで変わらないため、精算は年末調整に集中します。
準備として効くのは、給与ソフトの対応確認と、扶養の条件が変わった従業員への早めの案内です。この2つを10月までに済ませておけば、12月の作業は例年と同じ手順で回せます。改正の読み込みに時間を取られそうなら、今年は外部に任せることも選択肢に入れてください。